ヤモリ
ヤモリ
8 月 2 日の夜中 1 時半ごろに散歩と買い物から帰ってきたあと、ふと洗濯機の近くでなにやら蠢くものがいたと思ったら、ヤモリが家の中に侵入してきた。ここは 5 階(高さ的には 4 階相当)だし普段あまり窓も開けないし密閉された空間なので、小さいクモや蚊を除けば虫が入ってくることはほとんどない。なのでヤモリがいたときはびっくりした。
こちらがそれを認識するやいなや、向こうもこちらの存在に気づいたようだ。声を上げたからなのか、あるいは驚いてこちらが一瞬大きなリアクションを取ったのに向こうも驚いたのか、慌てて逃げ出した。洗濯機のちょうど裏側に隠れてしまった。手を入れられる隙間はほとんどないのでそちらに入ってしまうともうどうしようもなかった。それにしても久しぶりに爬虫類を見たがあんなにちょこまかとすばしっこい動きをするんだなと思った。その俊敏さに驚いたと言うの正確だ。
洗濯機の裏に隠れて見失ってしまったし、見失わなくても洗濯機の裏の狭さでは捕まえることもままならないのでいったん無視することにした。
そして翌日 3 日の 15 時半ごろにトイレに行こうとしたらトイレの扉の下の隙間で発見した。1 日で洗濯機からトイレまで移動したようだ。ここなら捕まえられるので急いで割り箸を手に取りヤモリを捕獲することにした。やはりすばしっこく簡単には捕まらなかった。トイレの床に置いてあるジョインマットの端くれと壁の隙間に隠れるように逃げていたがそこなら簡単に狙うことができた。しかしつまんでも身体をくねくねと曲げてすり抜けてしまい、ちょこまかとトイレを抜け出し今度は玄関の扉の隙間に行き先ほどと同じように隠れるようにしていた。その隙間に箸を入れて胴体を掴み、ようやく捕獲することができた。とりあえず手持ちのジップロックに入れて封をした。
正直なところ、虫は大嫌いだ。家の中に入ってきたら基本的には殺すようにしている。外にいるときに積極的に虫を殺したりするほど暇ではないが、家の中に侵入してきたものは家宅侵入罪とみなし殺してもいいというマイルールを設けている。特に飛ぶ系の虫はいちいち部屋中を飛び回るので鬱陶しくて仕方がない。勝手に入ってきた上に作業の気もそらすから、見かけたらなるべく殺すようにしている。まあクモは益虫だったりするからわりと見逃してそのへんをウロウロさせたりはするんだけど。
そして今回久しぶりに爬虫類を見たが虫と同類だと感じた。あのすばしっこい動きはゴキブリを連想させる。ヤツと似たような速さだから嫌悪感を覚えるのか、あるいは単純にあのちょこまかとした動きに嫌悪感を示すのかは自分でもわからないが、とにかくあのようにウネウネと動く姿を見て家の中に放ってはおけないと思った。そして発見してから 1 日以上経つまで見つからなかったこと、捕まえるときにいちいち逃げ回ったこともあり、正直殺してもいいかなとちょっと思った。家の中に勝手に入ってきたものに関しては殺すことに躊躇いはない。
しかし一度捕獲してジップロックの中に閉じ込めると急に大人しくなって(玄関の扉の隙間にいるときから動きが鈍かったので観念したのか)その様子をしばらく眺めていたらなんだかしおらしく感じてきた。なので、飼うとまではいかないが、気まぐれでそのまま家に置いておくことにした。まあヤモリなんて偶発的に見ることはめったにないので、このまま逃がしたり殺したりするのはもったいないという気持ちがあったというのもあるが。
ジップロックだとほとんど隙間がなく少し窮屈な感じだったし、どこかに置いておくにも袋だと勝手が悪いなと感じたので、紙コップに移すことにした。袋の隅にいたので逃げないように出口をふさぎつつ、紙コップをジップロックの口にあてがって移し替えた。ここはそこまで手間取らなかった。ただしジップロックと違って紙コップは密閉された容器ではないので口を塞ぐ必要がある。そこでラップを口に被せて結合部をガムテープで止めて閉じ込めることにした。
ただ、そのままだと完全密閉となってしまい外の空気との循環がなく酸欠で死ぬ可能性がありそうな気がしたので、ラップを爪楊枝でさしていくつかの細かい穴を開けた。そこから外との空気を出し入れできるように。
その後、穴を開けすぎたせいでラップの一部が破れてしまったことに気づいたので、逃げないようにその部分をガムテープで補強した。
そこからまたしばらく時間が経過し 4 日の早朝 5 時半ごろに確認したところ、まだ紙コップの中にいた。まあ逃げ場は作っていないから想定通りといえばそうなのだが。変わったことといえば紙コップの中で糞をしていた。そしてもう一つ気付いたことがある。捕まえた直後はわりと壁を積極的に登っていて、紙コップを振っても落ちないくらいしっかりと貼り付いていたのだが、このときに確認したら、壁を登りはするものの、すぐにポトンと落っこちてしまうようになった。弱っているようだった。
そこからしばらく経ち 6 日の 11 時ごろにまた観察しているとぴくりとも動かなくなっていた。このとき死んでしまったかと思った。しかし注意深く観察していると、わずかながらに動いていることがわかった。そして捕まえた当初との違いとして身体が真っ黒になっていることから、どうやら水不足で危篤になっているのだと判断した。ちょうど空気の循環のためにラップに穴を開けていたし紙コップはもちろん水に濡れないので、ラップの上から水を流して水分を供給することにした。とはいっても爪楊枝で開けた程度の小さい穴だから、ほとんど水が入ることはなく、大量に流し込んでようやく少しだけ入る程度だった。
それでもヤモリの身体にとっては十分だったようだ。しばらくして同日 15 時半ごろに再び確認したところ、すっかり元気になっていた。身体も以前のみずみずしさを取り戻していた。どうやら水が足りなかったというのであっていたようだ。
最初は洗濯機の上に置いて飼育していたが、洗濯機を動かすときにどかさないといけなかったり、その他にもタオルなどが置いてあって邪魔な位置にあったというのと、覗き込まないと様子を見ることができないというのもあってどこかのタイミングでキッチンに移動させた。これならキッチンに行ったときについでに視認することができる。
そこから追加で 1 度だけ水を入れた。あの身体なら少量の水でも問題なく生き延びられるようだ。そんなに頻繁に水を入れなくてもなんとかなる。
本格的に責任を持って飼うつもりはない。もともと殺してもいいと思っている存在だから、気まぐれで生かしているだけに過ぎない。ただの暇つぶしだ。水はあげたが、エサを調達して与える気など毛頭ない。あとはこのまま適当に水をあげつつ死ぬまで観察を続けていこうと思っていたのだが、ちょっと不満があった。それはガムテープの下に隠れてしまうことが多くなったことだ。
先に述べたとおり、ラップに穴を開けすぎて破れてしまったので、その部分をガムテープで補完した。紙コップは透明ではないのでその部分がちょうど死角になっている。もちろん覗き込めば見えるのだが、少し視認性が悪い。一日中隠れていられるように紙コップに保護したり死角を作ったりしたわけではない。あくまで娯楽として閉じ込めているだけに過ぎない。見せ物として動物園に動物を拘束するのと同じことだ。そんな生易しいことは考えていない。見えないのなら、そこで生かさせてやる必要もない。だからガムテープを取っ払いたかった。
しかし同じように別の紙コップやラップを使ったところで、ラップは脆いからまた破れてしまう可能性がある。それにそのたびにいちいち移し替えるのは骨が折れる。逃げるリスクがあるからだ。そもそもうまくいったところで水がほとんど入らない環境なので水を与えるのに苦労するという点も気がかりだった。それに白い紙コップだと上のラップ部分からしか確認することができないので少し覗き込まないといけないのも微妙だなと思った。
かといって、爬虫類を飼育する用の虫かごのようなものをわざわざ買うのは馬鹿らしい。別に定期的に飼うつもりでいるわけではなく、今回たまたま家に侵入してきたやつを飼い殺すために使う一時的なものだからそんなものにお金を払う気はさらさらない。今後同じように別のヤモリが入ってくることなんてもうほぼないだろうし、そのためだけに容器を用意するのはもったいない。どうせなら飼育する用のものではなく普通に食事に使えるものがいい。
使い捨ての透明のプラスチックコップを買ってきて、ラップとの結合部はガムテープではなく輪ゴムで止めて、ラップとコップの一部にストローを差し込んでそこまで水を供給できるようにするのはどうかとあれこれ考えていた。しかし少し仰々しい作りになってしまうし逃げないようにそこに移し替えてそこまでセットアップするのも大変そうだ。なんか微妙だなと思いつつも、現状のままだと隠れてばかりで面白くないのでとりあえず次にスーパーに行ったときに透明の使い捨てコップを買ってくることにした。
そして 13 日の 22 時半ごろに近くの西友に行ってきた。当初は予定通り使い捨てのプラスチックコップを買うつもりでいた。輪ゴムが同じコーナーになかったので日用品が置いてあるコーナーに移動し輪ゴムがないか探した。
そしたら料理を保存する用のタッパーやジップロックが売っているコーナーが目に入った。タッパーだと穴を開けることもできないから水を入れるためにわざわざ蓋を開けなければならず、その際に逃げてしまうリスクがあるからやっぱりタッパーはないかなと最初は思っていたのだが、いろいろ見ていると、なんと小さい穴が蓋に空いているものを見つけた。これは電子レンジ可の保存容器で、レンジで加熱するときに中の空気を抜くことができるように空けるための穴だった。これならここから水を入れることができるからちょうどいいと思った。まさにヤモリを飼育するのにぴったりな容器だと思った。値段も 2 個セットで 199 円(税抜き)と安かったしラップで穴を開けたり水を与えるためのストローを設置する必要もなく、これ一つで事足りるのでこれでいこうと思い購入した。
帰宅後、さっそく保存容器を開封し、移し替えることにした。最初に捕獲したときと同じように割り箸を用意してラップに箸で穴を開けて中にいるヤモリを掴もうとした。そしたら最初に捕獲したときとは比べ物にならないほどの激しい抵抗を見せた。最初に捕まえたときはたしかに逃げ回ったものの、最後は観念して大人しくなっていたが、今回はかなり暴れまわっていた。一度箸で胴体を掴んでも、激しく動き回るせいですぐにするりと抜けられてしまった。なかなか捕まえるのに苦戦しているうちに、開けた穴から隙をついて逃げてしまった。
キッチンで逃げ回るヤモリを見逃さないように目で追いつつ必死で箸で掴んで捕獲しようとした。しかしなかなか捕まらずどんどん隙間に逃げていこうとした。正直強めに掴めばかわされることもなかったとは思うのだが、あまり強く掴むと潰れて死んでしまう可能性があった。せかっく苦労して捕獲したり保存容器を新たに買ったりしたのでここで死なれては苦労が水の泡だ。なのでなんとか潰さないようにと加減をしたせいで捕まえるのに苦労してしまった。
結局今回は箸で捕まえることはできず、まな板の上を登っていったときにそのまな板を保存容器の近くまで持ってきてふるい落とすことで容器の中に入れ、すぐに蓋をして閉じ込めることで捕獲した。正直こんなに苦戦するとは思っていなかった。逃げ回る間、見失わないようこっちも必死で応戦していたのでかなり熱くなってしまった。興奮して心拍数もかなり上がった。
別に毒を持っているわけでもないのでこちらに危険が及ぶことはないのだが、逃げられてしまいまたどこかから探さないといけないめんどくささを抱える恐怖なのか、それとも動きがいつも以上にちょこまかとしていてこんなものが自分の部屋の中に今開け放たれているという嫌悪感なのか、あるいは前以上に激しく抵抗したことで躍起になってしまったのかはわからないが、かなり焦っていた。
捕獲したあと、苦戦させられて神経を高ぶらせられた腹いせとして容器ごと地面にたたき落とし数回容器を蹴って格の違いを見せつけた。今思えば少し大人気なかったとは思うが、もとより自分は虫に対しても無生物に対してもイライラさせられたらこういう態度をとる性格なので今さらどうも思わない。
そのあと容器の蓋にある穴の蓋を開けそこから水を入れた。ラップに爪楊枝で開けた穴と違ってわりと大きい穴なのですんなりと水を入れることができた。漏れないかどうかを確認するためというのとさっきの腹いせの続きで容器をひっくり返したりやつを水で追いかけるように傾けたりして水を循環させ漏れないかどうかを確かめた。しっかりと密閉されており漏れないようになっていた。安物なのにちゃんとしていて素晴らしい。当初やつは驚いていたが、その後慣れたのか諦めたのかはわからないが、水に濡れても抵抗しなくなった。まあ別に水攻めをするわけではないのでそれを見て満足し容器をもとに戻した。
ただ今度は逆の問題も起こった。たしかに水は紙コップのときより断然入れやすいのだが、一度入れた水を取り出すのはかなり難しかった。穴が隅についているわけではないのでひっくり返してもその穴に水が流れるわけではない。さらに穴のある部分はそれを塞ぐ蓋を収容するために凹んでいる、つまり内側からすれば隆起しているので、ひっくり返しても水がそこには流れにくくなっている。これも漏れ防止の一環なのかもしれないが、水を抜くという観点ではむしろやりづらいなと思った。なので必要以上の水は入れないように気をつけねばならない。
ちなみに穴は水が入るには十分の大きさだが、ヤモリが抜け出せるほどの大きさはないように見える。あれだけくねくねと身体を動かせるなら、穴に身体を押し付けて細くなりながら無理やり脱出するって可能性も考えられなくはないが、大きさ的に頭の部分がつっかえてさすがに無理だと予想する。捕獲して水をやってからしばらく観察していたが、今のところその穴から逃げ出すような兆しはない。
もちろん穴の蓋を閉めれば完全密閉なので脱獄は不可能だが、そうすると空気がこもってしまうのでそれが原因で死ぬ可能性を否定できない。紙コップのときにラップに穴を開けたのと同じように、可能であればこの穴は開けっ放しにしておきたいと思ったのでとりあえず開けた状態で管理してみることにする。
この話に特にオチはないのだが、2 日に見つけて 3 日につかまえてから 10 日以上経過してもまだ生きているのでしぶといなと思いつつ、今後も死ぬまでの間、サンドボックスの中でウネウネと動くのを観察する娯楽として飼育することにはなるだろう。現在無職で、そうじゃなかったとしても家からほとんど出ることがなく特に目新しいことも起こらない生活の中で、久しぶりに訪れたささやかな非日常だったので、こうして簡単な記録を取ることにした。
改めて思い返すと、今までも家に侵入した小さなクモを捕獲して飼い殺したりしていたので、虫や生き物は嫌いだと言いつつもそれを安全な場所から観察するのは好きなのかもしれない。いや、その存在が嫌いだからこそ、すぐに殺したり逃がしたりするのではなく、こうしてエサも与えず自ら得ることもできない空間に閉じ込めて、命尽きるまでの間その様子を眺める一種の狂気じみた性格が顕在する瞬間なのかもしれない。
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